当初は謎の多かった新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ですが、世界中で日々研究が進んでおり、詳しい正体もわかってきました。これまでの主要な学術論文をふまえ、感染を防ぐための知識を再度整理しておきます。無症状の感染者が飲食店や電車で、隣に座るかもしれないという前提でまとめます。まずは受動防御編から。

MISTECTのコンセプトは、「室内のウイルス量を減らし、接触感染のリスクを減らす」です。ウイルスをゼロにする保証はできません(そもそも空間除菌ができません)から、やはり大切なのは毎日の行動です。

COVID-19は「恐れるべき病気」なのか

その前に、「インフルエンザだって、毎年死亡者が出ている。今回の日本の死亡者数をみていると、むしろ少ないくらいだ」という意見もありますので、「COVID-19は恐れるべきかどうか」を確認しておきます。

やはり、恐れるべきです。理由は3点あります。

  • 医療崩壊の危険
    集団に免疫がない上に感染力が強いので、あっという間に病院が満床となり、十分な治療のできない人が出てしまうこと(死亡者が増える。また、別の病気の人もとばっちりを受ける)
  • 若い世代の犠牲
    インフルエンザではまず命を落とすことのない若い世代にも死亡者が出ていること
  • 後遺症の心配
    治癒しても、後遺症が残る例があること(運動選手や演奏家など、それが致命傷になりかねない場合もあること)

現時点でアメリカの感染者数は約200万人、死者数は約10万人です。ベトナム戦争で、アメリカ軍は1964年8月4日から1973年1月27日まで8,744,000人が従軍し、47,434人の死者です。COVID-19のほうが、ベトナム戦争よりも、犠牲者数が多い。この現実は把握しておく必要があるでしょう。

日本はここまでの状態にならずに済んでいますが、「第一波を抑え込んだ国は、この秋冬の第二波で大きな被害を出す可能性がある」と警告する専門家もいます。

手洗いが推奨される理由

新型コロナウイルスは、手洗いで消毒できます。これは、石鹸成分(界面活性剤)が脂質でできているウイルスのエンベロープを溶かし、不活化することによります。単に流しているのではなく、不活化して、流しているのです。

どのような界面活性剤が効果をもつかは、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)が経済産業省の依頼で有効性評価を実施しています(経済産業省のウェブページでリストを確認できます)。いろいろ並んでいますが、これは部屋の消毒への利用も想定してのもの。一般の手洗いや洗顔なら、ふつうの石鹸で効き目があると思って問題ありません。

むしろ気にしなくてはいけないのは、手洗いのタイミングとその仕方です。「ウイルスが手についたかも」という状況で、「手指を目・鼻・口にもっていく前」に手洗いをしないといけない。たとえば、コンビニエンスストアでスナック菓子を買い、袋をあけて手づかみで食べる場合、手洗いすべきは手づかみする寸前です。スナックの袋もウイルスに汚染されている可能性があるためです。

新幹線でサンドイッチをいきなり食べ始める会社員に驚いたことがあります。そこまでの電車の中、チケット券売機などで、新型コロナウイルスを手指につけてしまっているかもしれないのに、手づかみで食べる。京都大学でウイルス学を専門にしている宮沢孝幸・准教授は、水だけでも、時間が短くてもいいから、「こまめに洗おう」(それでウイルスを減らすことができ、感染リスクが小さくなる)と主張しています。せめて、サンドイッチについているお手拭きを使いましょう(次の投稿に、NG行動をまとめておきます)。

もちろん、時間も機会もあるなら、しっかり洗うべきです。ピコ太郎が手洗い動画を公開して話題になりましたが、この手洗いが模範的。指の間や爪など、くまなく石鹸をまわしてやらないと意味がありません。界面活性剤がウイルスのエンベロープを壊す時間も必要です。そしてこの際、爪も短く切っておくことを勧めます。爪の間にひそんでいるウイルスは、石鹸攻撃をかわすかもしれません。


この手洗い方法は規範的

マスクは「迷惑をかけないためのもの」と割り切る

マスクをめぐっては、本当にいろいろありました。感染予防の効果はないという人も、あるという人もいる。WHOのアナウンスも変わった。

ただひとつはっきりと言えるのは、マスクをすれば、周囲に迷惑をかけずに済む(飛沫を飛ばさずに済む)ということです。理化学研究所のシミュレーションを見てみましょう。仕切り板の有効性を確認するシミュレーションですが(高くすると効果がある)、そもそもマスクをしていれば、こうした飛沫を飛ばすこともありません。

逆にいえば、周囲に迷惑をかけるような環境ではない場合、マスクはとくにしなくてもいいでしょう。理由は二つ。第一に、マスクがウイルスの侵入を防いだとしても、マスクを正しい手順で慎重に外さないと、マスク表面についたウイルスを手指につけてしまう可能性があるからです。

マスクの口元あたりをつかんで、位置を修正する人をよく見かけますが、「いま、その指にウイルスがつきましたよ」と言いたくなります。そのあと、書類をめくるときに、指をなめるのですから、マスクをしている意味がまったくありません。外すときも同じです。

第二に、気温があがってくると、マスクは熱中症のリスクを高めるからです。厚生労働省も注意喚起をしています。「マスクを着用していない場合と比べると、心拍数や呼吸数、血中二酸化炭素濃度、体感温度が上昇するなど、身体に負担がかかることがある」と危険性を指摘しています。

海外では、マスクをしたままの運動で、脳に酸素が十分供給されず、死亡した例もあります。ジョギングなどではマスクをしないほうがいいでしょう。そのかわり、前走者との距離を十分とることです。

帰宅したら真っ先にお風呂

頻繁な手洗いで感染リスクを減らし、帰宅後は、すぐにお風呂に行きましょう。ダイヤモンド・クルーズ船の調査では、枕から多数の新型コロナウイルス(の残骸)が見つかっています。枕にいるということは、髪の毛に多数ついていた、ということです。

最初にシャンプーすることで、髪の毛についたウイルスだけでなく、手についたウイルスも自然と落ちます。つくづく、軟水資源に恵まれた国でよかったと思う瞬間です。「日本が感染を抑え込めた理由」はいくつもありますが、その筆頭が、毎日のように入浴する習慣でしょう。ゆっくり浸かって体温をあげれば、免疫力もアップします。

着ていたものは、ウイルスがついていたとしても、「ふつうの洗濯で問題ない」とされています。ただし、家族に感染者がいる場合は例外で、感染者の洗濯物はマスクと手袋で扱い、袋にいれて密封し、他の家族のものとは別に洗ったほうがいいでしょう。洗濯に入る前の扱いが雑だと、感染をひろげる恐れがあるからです。

可能なら、消毒マット

さらに可能なら、玄関に消毒マットを置くといいでしょう。靴裏について、新型コロナウイルスが部屋に侵入することもあるからです。鳥インフルエンザなどが発生したときは、感染拡大を防ぐため、足元を消毒するのは常識。次亜塩素酸ナトリウムの0.5パーセント水溶液とか、効き目があるとされている界面活性剤(経済産業省のウェブページ参照)の水溶液などを含ませたマットを踏んでから、玄関に入ると、さらに安心できます。

「洗えないもの」が問題

いささか悩ましいのが、スーツとネクタイです。COVID-19のアウトブレイクがおさまるまでは、社会全体で「スーツとネクタイは着なくてもいい」という合意が必要かもしれません。間違いなく、ネクタイには多数の新型コロナウイルスが付着しているという前提で行動しましょう。かなり昔の話になりますが、医師のネクタイを分析した研究があり、ありとあらゆる病原菌が付着していたといいます(だから最近の医師は、あまりネクタイをしません)。

スーツもネクタイも、基本、洗わないで着用するものだから問題なのです。幸い、プラスチックや金属の表面では長生きするといわれている新型コロナウイルスも、繊維の上では水分・油分を繊維にとられてしまうので、せいぜい2,3日で感染力を失うと考えられます。どうしても着用しなくはならないときは、ネクタイは5本をローテーション、スーツもせめて2,3日おきに着るというローテーションするようにしましょう。もちろん、洗えるスーツにするのは、とてもいい対策です。

学校は一時的に制服中止を

学校の制服はさらに問題です。学生服は基本、続けて着るもの。どんどん感染リスクが大きくなります。アルコールを噴霧する人もいますが、完全に処理するには、したたるほど吹く必要があり、たいていは気休めにしかなりません。

3着くらい用意して、洗いながらローテーションするか、あるいは学校と話し合い、一時的にでも私服登校にするかのいずれかだと思います。カバン類の消毒も、忘れずにやりましょう。

最後のThe Lancetのツイートを引用しておきます。物理的距離(Physical distancing)を1メートルとるだけで、感染リスクが12.8%が2.6%にさがるそうです。