飲食店や美容室などの場合は、オフィスと異なり、ふたつの観点からの対策が必要です。第一の観点は、実効性のある対策をとるということ。ここはオフィスと共通。第二の観点は、「お客様が安心して、お店に入る意思決定をしてくださる対策」をとるべきだ、ということです。お店に入る前から、「おっと、このお店は、わかってる!」と思わせることが必要です。

飲食店がとるべき対策

飲食店の場合は、お客様へのアピールも含めて、やるべきことが多数あります。以下、思いつくままに箇条書きにします。

  • 従業員は全員マスク
    マスクは必須です。マスクをしていれば、「いらっしゃいませ」と大きな声を出しても、お客様に不安を与えません。
  • 入口に消毒マット
    お客様の靴を消毒してから入室できるように、消毒マットをおきましょう。
  • テーブルの上にはなにも置かない
    これまでは、調味料や箸、メニュー、取り皿などを置くのが当たり前でしたが、飛沫が飛んでウイルスに汚染されるおそれがあるので、お客様が席についてから出してください。
    とくにお箸は紙でもいいので、1膳ずつ口にあたる部分を覆っていることが大事です。それだけでも印象が違います。
    「なにも置かない」と書きましたが、入手できるなら消毒用アルコールをテーブルに置きましょう。安心感が違います。
  • 取り箸やトングは人数分を用意する
    ダイヤモンド・クルーズ船の接触感染を再現した映像では(NHK)、ブュッフェ料理のトングを共用していたことからウイルスが広がっています。取り箸やトングを共用すると、そこから接触感染してしまう。取り箸やトングを人数分を用意するか、最初から料理を取り分けて出してください。
  • タッチパネルで注文なら、消毒用アルコールを常備
    「いろんな人が触るもの」は、つねにウイルスで汚染される危険がともないます。タッチパネルで注文するシステムなら、画面清掃用ウェットティッシュなどを用意しておきましょう。あるいは、お客様が帰ったあとに、画面を消毒し、「タッチパネル消毒済」を貼っておく。
    画面に残るウイルスに配慮していることが伝わるようにするのが重要です。「わかっているお店だなあ」と感じてもらうことが、安心につながります。
  • メニューから接触感染しない工夫をする
    メニューも接触感染リスクがあります。とくにチェーン店の場合、表面をツルツルに加工していますから、ウイルスも表面で長く生きている。これをどう処理するかです。さまざまな方法論があるでしょう。
    お客様のスマートフォンで、メニューだけでも見えるようにするとか、黒板に手書きしたものをもっていって、注文をとるとか、入口にメニューを並べ、決めてから入室してもらうなどです。もちろん、ツルツルなメニューを毎回、界面活性剤など消毒効果のあるもので拭き取るのもいい。触らせないか、あるいは触ったものは消毒する。そして消毒している場合は、そのことをしっかりお客様に知らせる。これが原則です。
  • トイレに対策をする
    トイレが新型コロナウイルスに汚染される可能性を考えて、トイレを出たところに消毒マットを置く、別の履物を用意するなどの対策をとりましょう。人がいないときに紫外線照射や、消毒剤の噴霧などのシステムも考えられますが、最も手軽なのは「履き替えてもらう」です。これでトイレから、ウイルスを靴でホールに持ち込んでしまうことを防げます。
  • 食器類は密閉空間に保管するか、洗ってから出す
    掃除や人の移動がきっかけで部屋に新型コロナウイルスが舞ったとすれば、それが食器やカトラリー類に付着してしまうかもしれません。飲食店やバーでは、ワイングラスがカウンターの上にぶらさがり、取り分け用の小皿がオープンな棚にのっていたりするのですが、いずれもウイルスに汚染される危険があるといっていいでしょう。
    密閉空間にしまいこむか、あるいは、お客様に出す寸前に石鹸で洗うかです。

美容室がとるべき対策

基本は上の飲食店と同じです。そして、特筆すべきこととして、「洗髪のタイミング」があります。髪の毛はいろんなものをくっつけてしまう、衛生的にいうと「汚い」ものです。おでこの吹き出物がなおらない人が、前髪をばっさり切るとあっさり治ったりします。新型コロナウイルスを髪の毛につけていたとしても、不思議はない。

そのまま、洗髪もせずに切り始めると、髪の毛とウイルスが目と鼻と口をめがけて飛んでくる、ということです。まっさきに洗髪をしてから切るか、洗髪しない場合は、美容師がフェイスガードとマスクで防護すべきです。

これまでは、待つ人のためにマンガや雑誌を置くのが一般的でしたが、これもやめてください。紙の上でもけっこうウイルスが生きています。香港では、寺院の経本の使い回しでクラスターが起きています。

ショップがとるべき対策

いまやレジ前にガードが垂れ下がってるのも当たり前になってきました。お客様にソーシャルディスタンシングをとっていただく工夫をするほかは、「商品も汚染されている」という前提で行動をすることが挙げられます。

商品を手にとって、棚に戻す、というのは消費者の普通の行動です。しかしこれで、ツルツルのパッケージにウイルスがついてしまいます。レジに飛沫が飛ぶこともありますし、ここは我が身を守るために、「商品をさわったら手洗い」を徹底するしかありません。お金にもついているという前提で扱うことが必要です。

カラオケボックス・カラオケバーがとるべき対策

いまだにクラスターが続いており、業態としては、最も3密が揃っているのがカラオケです(業界の方々は大変な思いをされていると思います)。カラオケは接触感染リスクと飛沫感染リスクが、通常の飲食店などより高いところが課題です。ウイルスのべったりとついたマイクで歌い、終わって飛沫の飛んだポテトチップスを手づかみで食べる。これはもう、リスクのかたまりです。

接触感染リスクは、マイクとカラオケマシンの操作盤のふたつ。しかもかなり強力。マイクはたっぷり飛沫をかぶっていますから、感染者がいたら、もうウイルスのカタマリです。これを持ち回ると感染をひろげます。消毒したマイクを人数分渡すとか、マイマイクをもってきたら料金を割り引くといった対応をすべきです。

歌うスペースで飲食をするのもリスクです。食べるものに飛沫、あるいはエアロゾルが飛んでいます。飲食とは場を分けるほうがいいでしょう(そのほうが、客も安心です)。歌い終わったら手指を消毒できるようにしておきましょう。

ソーシャルディタンシングをとるのが確実ですが、それでは、髪の毛をカットすることもできません。声をはりあげないカラオケもあり得ない。新型コロナウイルスは、たいへんに厄介なウイルスで、人と人のつきあいに水を差し、これまで当たり前にできていたことに制限をかけてきます。

そして日本を含め、アジアの国々はこの病気を抑え込むことに成功しましたが、だからこそ、この秋冬にやってくる第二波では、大きな被害を出す可能性がある、と警告する専門家もいます。ひとつひとりが自分の行動と周囲の環境を見直し、接触感染しそうなところは消毒し、身のまわりのウィルスの量を減らす。これを繰り返していくべきでしょう。

最後に問題です。これはスーパーマーケットの惣菜売り場の写真ですが、せっかくカバーをつけているのですけれど、あまりいい状態ではありません。どこがどうマズイと思いますか? 

ひとりひとりが「アッ、これはマズイ」と思うことが大事だと思います。
正解は、まず、惣菜にカバーをつけたことで、逆に、カバーを手で触り、ウイルスがつくところがマズイ。カバーを媒介とする接触感染機会を増やしています。続いて、トングを使い回すことが危険。これも、接触感染機会を増やしている。飛沫感染に気をとられすぎ、媒介物接触感染機会を増やしてしまっているという話。

買い物客の全員にマスクをしていただくなら、飛沫感染のリスクは激減します。それを前提にすれば、少なくともカバーは不要。このように、「穴」を見つけては、ひとつひとつふさいでいきましょう。そのうち、人類は新型コロナウイルスと共存できるようになるはずです。ウイルスだって、宿主を殺してしまうと、自分が生きられないんですから。