「PDAとケータイがあれば、iPhoneが自動的にできあがる」というものではない。要素のひとつひとつは既存のものかもしれないが、組み合わせて形にし、アプリやコンテンツのプラットホームとなるように開発したアップルの成果は、やはりイノベーションというにふさわしい。

MISTECTの要素技術

MISTECTの要素技術は、液体をミストにして放出するノズルである。ノズルを選択したのは、「ドラッグデリバリー」のためだ。

ドラッグデリバリーとは、体内の必要なところに、必要な量のクスリを、必要な瞬間に届ける技術のことである。量的・空間的・時間的なコントロールをする。

MISTECTは、対象が「室内」であるけれども、同じことをやっている。量的・空間的・時間的なコントロールをして、必要なところに必要なGSEを届けるために、ノズルを選択したということだ。

ブラウン運動とレナード効果

GSE水溶液をノズルから7μm程度の超微粒子にして空間放出すると、瞬時に水分が蒸発し、GSE分子のみが空間を漂い、ブラウン運動をする。直射日光が差し込む室内をみると、ホコリが浮いたまま動いているだろう。これがブラウン運動だ。以下は海外の子供向けの説明サイトだ。動きを確認してもらえると思う。

https://facts.kiddle.co/Brownian_motion

そしてもうひとつ、ノズルを使って超微粒子にすることで、レナード効果を得ることができる。水分子同士がぶつかりあうので、摩擦によって粒子が帯電するのだ。空気中を漂う粒子が帯電もしているので、室内の露出表面に貼りつきやすくなる。ちなみに、水分子の摩擦で静電気が起きる現象が、雷だ。

MISTECTを見たかなりの人が、「加湿器を使えばいいのでは?」という。たしかに加湿器も超微粒子にしたミストを発生させる。しかし、実験では、加湿器の周囲にしか薬剤が飛んでいない。ミストにする原理の違いのせいと類推するが、ともかく加湿器にGSE水溶液をいれてテストしても、ブラウン運動をしないし、帯電もしていないようなのである。ノズルとコンプレッサの組み合わせを選択した理由は、ここだ。

似ているのは水性塗料

たとえば床をターゲットにGSEをデリバリーするには、1)水溶液をスプレーする、2)モップなどで塗る、といった方法がある。MISTECTは超微粒子にして空間放出することで、自動的に床(や壁、家具の表面)にGSEをデリバリーする仕組みである。1)とも2)とも違って、人間の労力を必要としないことが大きな特長だ(作業はマシンを室内に置いて、スイッチを入れるだけだ)。

室内のあらゆる露出表面に放置するだけで貼りついていく。手作業では、どうしても「穴」(やり残し)ができてしまうが、MISTECTは穴をほとんど作らない。空気が行き渡っているところには、GSEも届く。ブラウン運動のおかげである。

とても似ているのが、水性塗料である。GSEそのものは油分だ。それを特別な技術で、添加物を使わずに水溶液にしたのが、MISTECTウォーターである。これを使いながら、水分をイッキに蒸発させて、表面に貼りつけていく。

GSEも水性塗料と同じで、水溶性の物質ではなく、水を「運び屋」として使っているだけだ。水分を飛ばして表面に定着すれば、塗料と同じように、水ぶきだけで溶けだすことはない。しっかりサーフェスに貼りつき、効果を発揮する(強くゴシゴシと拭きとられると、剥がれることはある)。

ウイルス抑制剤を室内空間に届ける方法として、ブラウン運動を利用するMISTECTマイクロスプレッダほど効率的なものはない。他に類をみない、と思っていたが、類似品がひとつあることを見つけた。「ワンプッシュで蚊がいなくなる」というスプレーだ。これはまさに、ブラウン運動で薬剤が部屋中に拡散することを示している。

(Author: 古瀬幸広)